お昼休みのお客さん

「失礼します。◯年◯組の▲▲です。
XX先生に用があって来ました」

職員室を生徒が訪ねてくるときのデフォルトの台詞である。生徒が我々を訪ねてくる理由はさまざまだ。部活の欠席連絡をしてくる生徒、遅れた提出物を出しにくる生徒、窓ガラスを割った反省文を書いて指導部の先生に渡しに来る生徒。


昼休みは来客のピークを迎える。奥では怒号が聞こえ、左隣では女の子の泣き声がする。向かいの先生は腕を組んで無言のまま、染められた髪の毛を睨み付けていた。あーあ、こいつまた再登校指導だよ。何回目だよ、と、俺はため息をつく。そんなことが日常茶飯事である。


そんなカオスな空間に、毎日昼休みに俺を訪ねにやってくる生徒がいる。その日も例外なく、ドアをノックして俺の名前を呼んだ。


職員室の外に出ると、THE・ギャルみたいな女の子と、大人しそうなショートヘアの女の子がにやにやしながら待っていた。またお前らかよ。教室に友達いないのか?と、可哀想なことは言わずに、彼女らが話し始めるまで待つ。




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「せんせーせんせー!聞いてください!」


「はい」


「問題です!私がさっき廊下で拾ったものはなんでしょーか!当てれるまで帰れま10!」


ギャル子がそう言うとショートちゃんは隣で爆笑し始めた。なんだよそれ。当たるわけねえだろ。とりあえず答えてみる。


「あー、ヘアピン」

「ぶぶー」


「じゃあ、小銭」



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「ぶぶー!答える気あります?」



「ありません。忙しいから帰るね」


そういって帰ろうとするとショートちゃんが俺を止めにかかる。






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「先生、今日【は】忙しいんですか?」


毒舌なショートちゃん。俺がこの時間、暇をもて余していることを見透かしている。
この子がちょっと曲者で、俺の行動をいつもチェックしているらしく、この前は帰宅時間すら把握されててちょっと引いてしまった。


「なんだよ、今日【は】って。いつも忙しいわい」



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「嘘ばっかり。忙しいならずっと机でスマホいじってるわけないじゃん」


……なぜ知っている。怖い。


「せんせー!早く当ててください!さあ!この右手には何があるでしょー!」


俺はしぶしぶよく分からないゲームに付き合うことにした。ちなみに前日にもこいつらは来て、ギャル子の恋愛相談で休み時間が終わった。いいのかお前らそれで。休み時間をそんな使い方して。


「ヒントくれ」

「ありません」

「ケチすぎん?」

「ありません」


ノーヒントを貫き通すギャル子。それにツボるショートちゃん。あとになって気づいたが、俺の発言をオウム返ししていたのだ。思い返すと腹が立つが、ムキになった俺は、当てるまで答えを言い続けようとした。


「んー、消しゴム!」

「あたりー!じゃあ、せんせー、さよならー!」


そういうと二人は駆け足で帰っていった。意気込んで色々と答えようとした矢先に正解を言ってしまったもんだから、何とも言えない気分になってしまった。しかもそれ言いたいがためにわざわざ職員室に来たのかよ。お前らの教室、最上階の隅っこだろ。


職員室に来る人間は、先生に怒られにくる人間だけとは限らない。